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トラムから降り、歩くこと数分。
青年は、ひとつの建物の前で立ち止まる。
真っ青な空に映える、白壁の建物は、この青年が
4年を過ごした宿であった。
カードキーを通し、エントランスのロックを解除する。
小さな電子音を拾ったのか、フロントの中から、
細身の女性が顔を覗かせた。
高い位置でくくられたドレッドヘアが、その動作を追ってはねる。

「こんにちは」
「…ジャスティンか」

ドアの内側に体を入れ、フロントに向けて声をかける。
こんな早朝に、と、訝しげだった女性の顔は、青年の姿を見とめて
綻びかけ…、すぐに渋面へと変わった。

「ああ、もう今日、なのか。…さびしくなるね」
「4年間、お世話になりました」

ジャスティンもまた、笑顔をひっこめて、深々と頭を下げる。
しんみりと黙り込む二人のわきを、同じアパートの住人たちが、
ちらちらと窺いつつ通り過ぎていく。
そんな視線に気づいて、女性はひらひらと手をふった。

「ま。今生の別れってわけじゃない。先にすること済ませてもらおうか」
「ええ」

もう一度軽く会釈をして、ジャスティンはフロント奥のエレベーターに乗り込んだ。
ちょうど、1階に来ていたエレベーターは、ジャスティンの指示に従って、
ぐんと高度を上げていく。時折、頭上からなにやら軋むような音が
聞こえてくるが、それもまた慣れたもの。
ジャスティンは気にする風でもなく、手荷物の外ポケットから鍵を取りだした。


「さて、では。始めますか」

かろうじてまだ、自室と呼べる部屋に入ったジャスティンは、
コートをぬいた。ズボンの裾は、膝上まで折り上げた。
長い修道服の上着部分も脱いで、コートとともに椅子にかける。
それから、窓を開け放し。バケツに水を汲んで、雑巾を湿し。
椅子、テーブル、ソファ、といった、家具を部屋の隅に追いやる。
もともとがものの少ない部屋である。
家具をどけた空間は、寒々しいことこのうえない。
ただそれは、現在-部屋の掃除をしている-においては非常に都合がよい。
そして何より、部屋の主は、完全に実利しか見ていない。
ひらけた床に散る埃を、ジャスティンは丹念に掃き集めていく。

「現状、どう考えても、此処に戻ってくることは危険極まりない。
けれど、それをせずにはいられない生真面目さは君の美点だね」

ジャスティンが、最後の綿ぼこりをごみ袋に移したところで、
そんな台詞が投げられた。窓と同じく、開け放した戸口に立っているのは、
白衣を纏った長身の男。その姿、さらさらと流れる銀髪ともに目を引くが、
なにより際立つ特徴は、その頭部を貫くネジであろう。
動きを止めたジャスティンに、にっこりとほほ笑みかけ、男は
室内へと踏み入った。

「…シュタイン博士」
「ああ、このコート。使ってくれてるのか」

椅子にかけてあったコートを見て、シュタインは目を細める。
すぐに、戦闘を行う意志はないようだ。
そう判断しつつも、ジャスティンは箒を置いて、背をまっすぐにのばした。
正面をきって、向かい合う。

「北ヨーロッパ支部に、問い合わせたんですよ。
君の動向。ババ・ヤガー陥落直前まで、君に不審な点はなかったという。
いつものように出勤して、帰っていく、とね」
「…それは、そうでしょう。始める前から疑われていたら、たまらない」
「濡れ衣きせられて、疑われるのも、たまらないですよ」

恐らくは皮肉なのだろう。けれど、そんな感情は露ほども見せずに、
シュタインは懐に手を入れ、煙草-このあたりやはり面当てなのだろう-、を、取りだした。

「君、デス・シティに滞在するときは、いつも部屋を完璧に掃除してから
発ってましたよね。そんな君の性格上、ここも放りっぱなしにしておく
はずがないと思って、ちょくちょく足を運んでいたんですが。大当たりでしたね」
「おやおや。知らないところで、私のことを見ていた人もいたのですね」

誰とも接さないようにしてきたのに。と、ジャスティンは肩を竦める。
接する以前に、君のそのナリは目立つんですよ。と、シュタインは煙草に火を点ける。
だが、シュタインの行動は、その半ばで制された。
いま火を点けたばかりの先端部を、ジャスティンがその腕で切り落としたためだ。

「すみませんが。部屋に匂いがついてしまうので、煙草はご遠慮ください」



ここまできたので補足。
時間は、デス・シティからジャスティンが逃亡してから、数週間後。
うちのジャスティンは、ものが定められた形であることに拘る子なので、
もしかしたら死武専の人間がはってるかもしれませんね…とか思いつつ、
ヨーロッパ担当になってから住んできた家を処分しに戻ってきたのでした。

匂いがつくとか、ジャスティン嫌いそうだ。
ギリコさんは、酒は飲むけど、煙草は吸わないイメージがある(吸ってもかっこいいと思うけど
…なので、部屋にいれても安心。
まあね…ホカの匂いはつくかもですけど、ね。

拍手お返事です。
拍手のみの方も、ありがとうございます。

>小鳥遊左近さま
コメントありがとうございます~。
ええと、関西オフ…というか、デ、デデデ…デート(わぁ…!)の
件は、改めてそちらにお伺いいたします…っ!
六花はかなり本気です…!!
拙宅のGJ好きと仰っていただいて、ありがとうございます。
裏ページ、読者様がここにも(笑)
ブログには裏ネタ書けないので、そろそろ復活させたいです;
もう少しお待ちください~。


 

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